松。 / by Naoki MIYASHITA

春先のことでしたか、お世話になっている方から「松風」を撮って欲しいと頼まれまして、丸一日あれやこれやと日本の芸能・文化の匂ひのような曖昧だけれども確かにそこにあり続けるものを撮り続けたのですが、これは大いなる修行となりました。

もちろん「松」も撮るわけですが、それでやっと「松」って何かなとあらためて問う事となり、自分の中の埋めなければならないピースのひとつになったわけです。

友禅の絵付け師の友人がタイムラインの中で「松は最後に向き合うものになりそう」とこぼしているのを見つけたりすると、なるほどこれはやはりただ事ではないのだなと殊更に思うわけです。

松、松、松。

見渡せば市中にもそして名勝史跡のあちらこちらにも松はあるわけです。ない場所を探す方がもしかすると難しいのかもしれない。それくらい、ある、わけです。そうしてレンズを向けるようになると、これがなんとも勇ましい。雌松・雄松とあるはずなのですが、どれも相応に威勢を張っているわけで、これなしに景色は成り立たないこともしばしば。

そんなある時、ふと思い出す事がありました。

話しは随分過去に遡って、大学に進学する直前のことです。(18の時のことなのでもう倍ほど生きたことになるんですね)京都を離れひとりぐらしをする際に、思い立って親父にひとつお願いをしました。

「おじいちゃんに一筆画を描いてもらいたいんやけど。」

友禅の絵描きもしていた祖父からそうして三枚ほどの色紙を親父が持ち帰ってくれたわけなんですが、「険しそうな、しかし、凛々しくもある」と、選んだ一枚は「松」でした。そこに込められた意味に少しずつ近づいているのかもしれないなと思いつつ、あぁ、昨日はそういえば五山の送り火だったなと思いつつ。